東京地方裁判所 昭和59年(ワ)13142号 判決 1985年4月16日
原告
ニチメン株式会社
右代表者
日比野哲三
右訴訟代理人
海老原茂
橋本岑生
被告
破産者石芝サービス株式会社
破産管財人
笠井盛男
右訴訟代理人
友部富司
桜井公望
山田勝利
黒川康正
主文
一 原告が被告に対して売買代金債権金一、八六〇万円を有していることを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
本件訴を却下する。
2 本案に対する答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は破産者石芝サービス株式会社(以下「破産会社」という。)に対し、昭和五九年八月二一日、訴外三和機工株式会社製NM―BSP一一〇〇水中用ロックブレーカー一式(以下「本件物件」という。)を代金一、八六〇万円で売渡した。
2 破産会社は、同年一一月八日東京地方裁判所において破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任された。
3 よつて、原告は、被告に対して右売買代金債権金一、八六〇万円を有していることの確認を求める。
二 本案前の抗弁
原告が被告に対して有していると主張して確認を求める売買代金債権は破産債権であるところ、破産債権は、破産手続によらなければ行使できず(破産法一六条)、破産法所定の債権調査期日において破産債権として認められるか、異議があれば債権確定の訴を提起してその存在及び額が確定されるものである(同法二四〇条、二四四条)。しかるに、本件訴は、債権調査期日前に破産債権の存在確認を求めるもので、右の破産法所定の債権確定手続を逸脱するから、訴の利益を欠き、不適法である。
三 本案前の抗弁に対する原告の主張
1 破産会社は訴外株式会社西村組(以下「訴外西村組」という。)に対し、昭和五九年八月二一日、本件物件を代金二、一三〇万円で売渡し、訴外西村組は破産会社に対し、右代金の内金五六〇万円を支払つた。
2 原告は、動産売買の先取特権の物上代位により、破産会社の訴外西村組に対する本件物件の売買残代金一、五七〇万円の債権について優先弁済を受け得る権利を有しているが、原告が東京地方裁判所に右債権の差押命令の申立をしたところ(同庁昭和五九年(ナ)第四二二一号事件)、同裁判所は、原告の被告に対する売買代金債権の存在を証明する確定証拠を要求している。
3 そこで、原告は、右の確定証拠を得るため、本件訴を提起したものであつて、これは破産手続によらずして行使し得る別除権の行使のためのものであるから、破産法一六条に抵触しない。
四 請求原因に対する認否
請求原因1項の事実は知らない。同2項の事実は認める。
第三 証拠<省略>
理由
一訴の適否について
被告の本案前の抗弁にかんがみ、まず、本件訴の適否について検討する。
原告が本件訴においてその存在の確認を求める債権が破産債権に属することは明らかであるところ、破産債権は、破産手続によらなければ行使することができず(破産法一六条)、破産法所定の債権調査期日において破産管財人及び他の破産債権者の異議がなければ債権は確定し(同法二四〇条)、もし異議があれば異議者を相手方として債権確定の訴を提起してその確定を図ること(同法二四四条)が予定されていることは、被告の主張するとおりである。しかし、本件についてみるに、<証拠>によれば、本案前の抗弁に対する原告の主張1及び2項の事実が認められるところ、原告において、動産売買の先取特権の物上代位により、破産会社の訴外西村組に対する売買残代金債権の差押命令を得るため、他に適当な方法がない以上、先取特権行使の前提となる被告に対する売買代金債権の存在確認を求める必要があることは否定できず、これについては破産法一六条の規定にかかわらず、破産手続によらずに訴求し得ると解すべきである。けだし、元来破産財団に属する財産の上に存する特別の先取特権を有する者は、別除権者として破産手続によらずにこれを行使し得るのであるが(同法九五条)、本件訴は動産売買の先取特権を行使することを目的としたものである上、先取特権の目的物が売却された場合に債務者が受けるべき金銭に対して先取特権を行使するためには、その払渡前に差押をすることを要するところ(民法三〇四条)、もし破産手続によらなければならないと解すれば、破産管財人が債権調査期日において徒らに債権の認否を留保し、あるいは、異議を申し立てるなどして当該債権の確定を遷延させることによつて、事実上先取特権者が物上代位して先取特権を行使できないようにするという不当な結果を招来するからである。
もつとも、先取特権者による差押前は、債務者が先取特権の目的物に代る金銭の払渡を受けることは禁じられないから、この段階では先取特権者に優先弁済権が保証されているわけではないけれども、このことは、先取特権者が自己の債権の回収を図るため進んで物上代位して先取特権を行使しようとする方途を妨げる理由とはなり得ない。
よつて、本件訴は、訴の利益があるというべく、これを欠いて不適法であるとする被告の本案前の抗弁は、採用することができない。
二本案請求について
<証拠>によれば、請求原因1項の事実が認められ、同2項の事実は当事者間に争いがない。
三結論
そうすると、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官萩尾保繁)